「どの科が最も自分に合っているのだろう?」
「自分は何科であればやっていけるのだろう?」
「他にも自分に合った診療科があるのではないか?」
迷えるDrの卵、研修医の諸君、よろしくどーぞ。
こんな感じの問いや悩みを抱えていないだろうか?
おそらくポリクリや研修中のカンファレンスで暗くなっている時や、先生のレクチャー中に考えていることだろう。
なぜ分かるかって?
そりゃ、私がそうだったからである。
そんな私のプロフィールはこちらだ。
医師兼会社経営
地方国立医学部⇒初期研修⇒後期研修⇒外資系戦略コンサルティングファーム勤務⇒起業
ということで、今回はそんな諸君に、「診療科毎の適性」「自分に合った診療科の見つけ方」という点をどこよりも深く、そして分かりやすく解説していこうと思う。
前提
最初に3点ほど前提をお伝えしておく。
前提①
適当に「おすすめ」という言葉は使わない。
たまにこの科が「おすすめ」と人に勧める人がいるが、後述のように、人によって重視しなければいけない「ポイント」が大きく異なる。
ゆえに、安易に「おすすめ」と言うのは無責任だと考えているからだ。
前提②
上記に通ずるが、「適した診療科」というのは、診療科のみで決まるのではなく、働く地域、その病院自体やそこの診療科の特徴によって大きく変化する。
一例を挙げると、私の知っているある病院の循環器内科は365日全ての医師がオンコールであった。
ゾンビのように病院を歩いていた若手医師を今も忘れない。
前提③
この後お伝えする考え方は、「絶対○○科!」「○科が大好き!」みたいな諸君にとっては不要である。
めちゃくちゃ好きな診療科があれば、合理的に決断する必要はない。
好き以上に強い要素などないからだ。
是非、その道で邁進していただきたい。
診療科選びの全体像
それでは具体的に、「自分に適性のある診療科の選び方」をお伝えしていこう。
まずは以下の図を参照してみて欲しい。
最初のSTEPとして、各診療科毎の特徴を網羅的に整理する。全ての科をする必要はなく、例えば研修医の諸君であれば、「絶対にない」と思っている科は検討しなくても良い。
一方で、例えば「美容」という選択肢を最初から検討から外すのは推奨できない。というのは、後から「こんな選択肢あったんだ」と気付いた医師を挙げれば、枚挙にいとまがないからである。
次のSTEPでは、自分に焦点を当てる。いわゆる就活で使われる「自己分析」だ。私の主観も入るが、このSTEPができていない医学生、研修医は非常に多い。
上記2STEPを踏んだ後に、STEP③で診療科を決定する。
これが診療科選びの全体像である。
ここからは各詳細について解説していく。
STEP①|診療科毎の特徴を理解する
STEP①については、以下の3つのプロセスを実施する。
①網羅的に診療科を書き出す
②一定の評価軸を設定する
③評価軸に沿って、各診療科の特徴を書き出す
①網羅的に診療科を書き出す
これが意外と難しいのではなかろうか。ポリクリ中の学生にとってはeasyかもしれないが、ほとんどの人は漏れが生まれるように思う。
②一定の評価軸を設定する
①面白いポイント②辛いポイントの2つで良いかと思う。
例えば、お金・時間・やりがいのような評価軸もあるかと思うが、それらは面白い、辛いポイント内に含有させることで、包括的に評価できるはずだ。
③評価軸に沿って、各診療科の特徴を書き出す
各診療科について記載していくが、ここで前提条件が2点ある。
- 私の実体験を反映させる。これは、主観が入ってしまうことにはなるが、情報として実体験を反映させなければ薄っぺらい価値のない情報となるからだ。
- 私の周りや、一般論を反映させる。これは、1だけでは単に「お前の主観だろ」となる為、可能な限り客観性を出し、活用できる情報とするためだ。
注意点をよく理解してくれた良い子の諸君は、是非読み進めていただきたい。
脳神経内科
<面白いポイント>
- 鑑別疾患が複数となることが多々ある為、「考える」というプロセスが多い
- 脳という未だに未知の領域を探求できる
<辛いポイント>
- 意識レベルの低い患者さんが多く、話せないことが多い
- 神経内科の医師は、理屈っぽい?人が多い傾向がある
脳神経外科
<面白いポイント>
- 脳というクリティカルな臓器に直接触れることができる
- 繊細な技術が要求される
- 他の外科と異なり、1人で全て実施するような手術もあり、「個の力」で戦える
<辛いポイント>
- 脳卒中、急性硬膜下血腫等での緊急手術が多く、頻繁に呼び出される
- 手術のリスクが大きい
- 術後管理が大変
循環器内科
<面白いポイント>
- 心臓というクリティカルなる臓器に携われる。その結果、感謝されることが多い
- 内科だが、カテーテルや、エコーといった手技が多い
- 不整脈等の危険な状態の対応ができ、他科の医者からも一目置かれることが多い
<辛いポイント>
- 病院にはよるが、基本的に緊急カテーテルの呼び出しが多い
- 心不全、術後等の入院患者が多く、オンコールが多い
心臓血管外科
<面白いポイント>
- 心臓というクリティカルな臓器を直接触れる
- とにかくオペが刺激的であり、命を救うという感覚を得られる(実際救っている)
<辛いポイント>
- 緊急オペ、術後管理ととにかく呼び出し、オンコールが多い。というか、帰れないことが多い。
呼吸器内科
<面白いポイント>
- 内科だが、気管支鏡という手技があり、面白い
- 呼び出しは比較的少なく、落ち着いていることが多い
- バランス感覚が良い先生が多い傾向
- 肺炎等のCommon diseaseに慣れており、内科として開業しやすい
<辛いポイント>
- 末期の肺癌患者さん等を看取る時が辛い。酸素投与してもずっと苦しそうにされているのを、診るのは辛い
胸部外科
<面白いポイント>
- 開胸だけでなく、胸腔鏡やロボット手術もできる
- 基本的に、気胸等しか緊急手術がない為呼び出しが少なく、ワークライフバランスを保ちやすい
<辛いポイント>
- 脳や心臓と比較した際に、クリティカルな局面が比較的少ない
消化器内科
<面白いポイント>
- 内視鏡が面白い
- 上部と下部で見え方が全く異なる為、違った楽しみがある
- 観察だけでなく、ESD等の内視鏡的外科処置が可能で、外科的面白さもある
- 内視鏡というスキルにより、独立・開業しやすい
- バランス感覚の良い先生が多く、親しみやすい傾向がある
<辛いポイント>
- 排泄物と絡む機会は他の科より多いので、そういうのが特に苦手な方は辛い
- 内視鏡検査が多いので、内視鏡が楽しいと思えなければ辛い
消化器外科
<面白いポイント>
- 肝胆膵、腸と多数の臓器の手術が可能である
- 肝膵は特に繊細な手技が多くなるが、腸の場合には手術中に雑談する余裕がある局面も多め
- チームで手術している感覚を得られる
- アグレッシブ?明るい?先生が多い傾向がある
<辛いポイント>
- イレウス、虫垂炎等の緊急手術が多く呼び出し多め
- 消化管を扱うので、当然排泄物に触れる機会は多くなる
糖尿病・内分泌内科
<面白いポイント>
- 糖尿病の管理、血糖のグラフをほぼ毎日見る
- 緊急の呼び出しが少ない
- 穏やかな先生が多め
<辛いポイント>
- 言うことを聞いてくれない患者さんが一定数いる(治す意欲が低い)
- 地理的な影響も大きいが、生活保護の方の診療に疑問を覚える場合がある
感染症内科
<面白いポイント>
- 何の菌が、どこの臓器に感染しているのか?だから、どの抗菌薬を選ぶべきなのか・・・というロジカルなアプローチが必要になる。
- 私が実際に感染症内科の先生に言われたのは、「いかにセクシーに抗菌薬を選択できるかが大事だよ」。何でもかんでも広いスペクトラムで出したら駄目だよ、ということ。
- ウイルス、菌がかわいい?グラム染色でかわいさが分かれば、君は感染症内科だ
<辛いポイント>
- 基本的に他科の入院患者さんを診ることが多い為、他科との関わりが多くなる
血液内科
<面白いポイント>
- 悪性腫瘍に対して、診断~治療まで一気通貫して行える
- PICC、骨髄検査、腰椎穿刺など手技が多い
- 懸命に病気と向き合って乗り越えていこうとする患者さんの治療に携わることができる
- 免疫不全状態も多く、感染症管理等の内科全般の幅広い知識が要求される
<辛いポイント>
- 血液疾患は亡くなられる方も多い
- 容態の変化する方も多く、呼び出し、オンコールが多い
膠原病内科
<面白いポイント>
- 診断が面白い。経過、症状、身体所見、検査結果を総合して判断していく必要がある。
- 「免疫学」という最先端の研究結果を反映した臨床を実践できる
- 一生を診ることになるケースが多い。完治ではなく、寛解が多いので、長い付き合いとなる。
- 緊急が少なく、呼び出しがほとんどない
<辛いポイント>
- 完治させられない時に辛さを感じる
腎臓内科
<面白いポイント>
- 透析管理がメイン
- シャント穿刺ができる。普通の血管と違った魅力がある
- 穏やかな先生が多い
<辛いポイント>
- アクティブなタイプには、落ち着いてる局面が多いので辛いかもしれない
救急科
<面白いポイント>
- 様々な疾患を診れる
- 刻一刻と状況が変わる
- 手技を行う機会が多い
- オンオフはハッキリしやすい(※病院による)
- アグレッシブな先生が多い
<辛いポイント>
- 刻一刻と状況が変わるので、落ち着きたい人には辛い
- アグレッシブな先生が多いので、ゆっくり考えたい人などには辛い
総合内科
<面白いポイント>
- 様々な疾患を診れる
- 難しい、珍しい病気に出会うことがある
<辛いポイント>
- 専門性が弱いと言われることがある
- 「よく分からないのは、とりあえず総合内科に」という風潮がある(※病院による)
精神科
<面白いポイント>
- 脳という未知の領域を学んでいける
- 緊急、オンコールが少ない、時間外が少ない
<辛いポイント>
- 問診が特徴的であり、精神科患者さんと話すことが苦手な人には辛い
- 病気でない方と同様のコミュニケーションが取れない患者さんが多く、診察に対して苦痛を感じる人もいる
眼科
<面白いポイント>
- 白内障などの手術をたくさんできる
- 細かい手術ができる
- 命に関わることは少ない
- 「人の視力を良くする」というのは感謝されたり、やりがいを感じやすい
- 緊急や時間外は少なめ
<辛いポイント>
- 眼という領域に絞られるので、色々なことに興味が湧く人は辛いかもしれない
耳鼻咽喉科
<面白いポイント>
- 複雑な手術がある
- 緊急や時間外は少なめ
- 命に関わることは少ない
<辛いポイント>
- 耳、鼻、喉という領域に絞られるので、色々なことに興味が湧く人は辛いかもしれない
整形外科
<面白いポイント>
- 脊椎を除けば、繊細な手術というよりはダイナミックな手術である
- 高齢者以外であれば、健康な人を相手にすることが多い
- 画像検査で直感的に分かるものが多い
- チームで手術をしている感覚が強い
- アクティブな先生が多い
<辛いポイント>
- 高齢者の手術ばかりしていると、意義を考え出してしまう時がある
- 勢い?のある先生が苦手な人には辛い
形成外科
<面白いポイント>
- 繊細な手術をできる
- 頭から足の指先まで治療範囲である
<辛いポイント>
- 病院内でマイナーな立ち位置だったりする
麻酔科
<面白いポイント>
- 硬膜外麻酔等の様々な手技ができる
- 手術室にいることができる
- ICUや、緩和医療など様々な道がある
- 患者さんと直接話さなくて良い
<辛いポイント>
- 人と話すのが好きな人は辛い
- リスクの高いオペの場合のプレッシャーが高い
産婦人科
<面白いポイント>
- お産という人生の大きな分岐点の手助けができる
- 手術ができる
- エコーができる
- お産による緊急手術が多い
<辛いポイント>
- 健康な母体、赤ちゃんが亡くなるリスクがある
- 訴訟リスクが怖い
泌尿器科
<面白いポイント>
- 外科、内科の両方の側面を持っている
- 手術、抗がん剤、薬物治療まで一気通貫で実施できる
- 内視鏡手術、ロボット手術等幅広い術式を経験できる
- 男らしい先生が多い
<辛いポイント>
- 下半身を多く診ることになる
小児科
<面白いポイント>
- 子供がかわいい
- 子供のルート確保は大人と違う
<辛いポイント>
- 子供が嫌いでも、子供が好き過ぎても辛いかもしれない。大学病院では、治らない疾患を診ることも多いので、市中病院だけで研修して決めるのはオススメできない
- 子供だけでなく、親御さんとのコミュニケーションが重要となる
放射線科
<面白いポイント>
- 診断科メインであれば、画像をひたすら読むことに集中できる
- 患者さんと話す必要がない
- IVRもあり、手技もできる
- 読影というスキルにより、バイトで生計を立てやすい(?)
<辛いポイント>
- 患者さんと話すことがない
- ひたすらパソコンと向き合う
病理診断科
<面白いポイント>
- 疾患の本質を理解していくことができる
- 病理診断により、確定診断を付けることができる
- 病理組織の取り扱ったり、顕微鏡を毎日覗く
<辛いポイント>
- 他科の患者さんの確定診断となる為、プレッシャーがある
- 患者さんと話さない
美容外科
美容外科については、以下の記事で詳細に解説している
美容皮膚科
<面白いポイント>
- ほとんどの女性が抱える「美肌になりたい」というニーズに応えていくことができる
- 知識がそのまま自分にも使えるものになる
- レーザー等の施術を実施できる
- 給与が高い
- 当直・オンコールがない
- 時間外がほとんどない
<辛いポイント>
- 自由診療であり、クレーム等のリスクが保険診療よりも高い
リハビリテーション科
今後追記予定
臨床検査科
今後追記予定
もう少し良い整理の仕方もあったように思うが、今後より良いものにアップデートしていこうと思っているので許していただきたい。
あくまで、一例として参考としていただいた上で、自身でも各診療科の特徴の理解は時間を取って整理しなおしてみて欲しい。
STEP②|自己分析をする
次は「自己分析」というステップに入る。
「自己分析って何???」
状態のそこの君。
気持ちはよく分かる。
これまでやってきたことがある医学生、研修医の方が少数派だろう。
自己分析とは、「これ」といった決まったやり方があるわけではなく、「自分の幸せの基準や、どのようになりたいのか、自分はどんな人間か」といったことを明らかにし、それにより「自分に適した選択肢を選ぶ」ことを可能にするための手法である。
ゆえに、場合によっては数十~数百の質問に対して、千本ノックのように回答を作っていくといったやり方もある。
一方で、最も重要な部分のみを今回切り出してみると、以下の3点の質問に集約されると考えている。
これらの質問に対する回答ができていれば、
①の質問により、自分がどの診療科がフィット感があるのか分かる。
しかし、これだけで決めてしまうと人生という長い目で見た時に、「こんなはずでは・・・」となってしまうリスクが高まる。
ゆえに、②の質問により、自分は家族との時間を長く取りたいのか、趣味に時間を多く使いたいのか、たくさんお金を稼いで海外旅行に行きまくりたいのか・・・といった点を明らかにしておく。
一方で、今は激動の時代でもあり、数十年後という長いスパンで物事を考えていても、何が起こるかは分からない。
なので、③の質問により、少なくとも1~5年くらいの期間では、自分は何をできていれば「幸せぇぇぇー」と感じれるのか明らかにしておくのが良い。
②と③の部分について明らかにできたら、時間、お金、やりがいといった3要素で、診療科毎に評価してみるのも良いだろう。
STEP③|診療科を選択する
さぁ、STEP①、②を実施してきた諸君・・・
Congrats!!
おめでとう。
あとは、自己分析で明らかになった「自分が重要視している要素」に照らし合わせて、それに合致した診療科を選択するだけである。
これで、「自分に適性のある診療科を選択する」という君のミッションはクリアだ。
診療科の適性とは
最後に私の主観も含めて、「診療科の適性」について述べさせていただく。
私は診療科の適性とは、大きく次のような3つの意味合いがあると考えている。
①その診療科の業務内容が自分の得意・好きとマッチしている
②その診療科における職場の人間関係(医師同士、コメディカル、患者さん)が自分にマッチしている
③その診療科における、ワークライフバランスが自分の人生に合っている
一般的に言えば、「診療科の適性」というワードを出す時には、無意識に①を想像していることが多いかと思う。
しかし、②と③の意味合いも含めて検討しておかなければ、後々苦労したり、悩みが大きくなる危険性がある。諸君等のライフステージによって、プライベートの環境が変化し、それに伴い重視すべき点が変化するからだ。
「君ってXXX科ぽいよね!」
「AちゃんはXXX科に合ってるよ!」
「BちゃんにはXXX科がオススメだと思う!」
と誰かがあなたに言っている時には、先述の3つの意味合いにおいて、別々の意味で述べている。
ゆえに、人の発言だけで自分の将来を決断してはいけない、よく考えるべきだ。(当然上記の3つの意味合いまで考慮して、助言してくれているのであれば話は別だが)
個人的には、①がまず最優先、その後に②、③の順番でチェックしていく、というのが良い流れではないかと考えている。
闇雲に時間を使うのではなく、正しく検討を進めて良いキャリアを選択できるようにしていただきたいと強く思う。
まとめ
いかがだっただろうか?
今回の記事では、ポリクリ中の学生や初期研修医であれば、80%以上は悩むであろう「自分に合った診療科を決める方法」について解説してみた。
私自身がポリクリ中、研修医の頃には様々な人の発言であったり、情報にまどわされて苦労した経験があるので、少しでも諸君等の意思決定の助けとなれれば嬉しく思う。
医師兼会社経営
地方国立医学部⇒初期研修⇒後期研修⇒外資系戦略コンサルティングファーム勤務⇒起業
コメント