【医師が解説】美容皮膚科医になるには

キャリアの考え方

「美容皮膚科医に興味はあるけど、どういうステップを踏むべきかわからない」 

「美容皮膚科医として働く自分のイメージが不明瞭で、漠然とした不安がある」 

「美容医療をやりたいけど、手術がある美容外科は私にはちょっと、、」 

皆さんは今、こんな悩みを抱えていたりはしないだろうか? 

私の場合は多分にあった。(※私は現役美容外科医である) 
 

そして、そんな悩みの多くが晴れぬまま、勢い任せで大きな決断をしてしまったことを非常に反省している。

(言い訳にはなってしまうが、大学病院勤務で忙殺される日々を過ごしていたため、玉石混交溢れかえるネットや転職エージェントの情報を精査する余裕など全くなかったのだ。そのため、当時利用していた転職エージェントの「先生にオススメです!」という甘いワードに自らフラフラとついていってしまった。) 

この記事を読んでくださっている皆様方には、「効率的かつ必要十分な情報を取得し、最適な判断をしていただきたい」と心より願っている。 

その一助となるべく、現在美容医療の現場で働く私の視点も踏まえて、悩みを解決する情報をドンドコ伝えていく。(わたしのプロフィールは以下の通り。) 

それでは、早速解説を進めていこう。 

結論:美容皮膚科医になるには? 

この問いだけに対する答えは単純明快である。 

2年間の初期研修プログラムを修了後、美容皮膚科クリニックに就職すれば、その医師は美容皮膚科医である。 

はぁ(*´Д`)

とやや半ギレされた読者の方もいるかもしれないが、私は至って大真面目である。 

少し補足すると、研修医の方は研修医を修了後すぐに美容皮膚科医になることができる。今他科の医師をされている方は、今すぐに転職も可能ということである。 

また、この記事を読んでくださっている方々の中に、将来医師になるべく受験勉強に目下勤しんでいる高校生・浪人生もいると想定して、さらに前段階からのプロセスを階層別に以下に示した。(現在、医師の方はスキップしていただいて構わない。) 

全プロセス

Phase1:全ての医者が経る過程 
医学部合格(最年少:18歳)→医学部卒業(最短6年間)→医師国家試験合格→初期研修プログラム修了(2年間) 

Phase2:美容皮膚科医になる過程 
美容皮膚科クリニックに応募し採用される。以上。 

Phase1に関しては、ごくまれな例外を除けば、基本全ての医師が通る過程であり、最短でも8年はかかる。 

そして、Phase2に関してはPhase1を満たせばいつでも移行可能だ。ただし、全ての美容皮膚科医がPhase2に直行しているわけではない。むしろ現段階では少数派だろう(増加傾向ではあるが、、)。このプロセスの詳細に関しては「③美容皮膚科医になる為の全てのステップ」に記載している。先に気になるという方は、目次からリンク先に飛んでいただければと思う。 

上記で述べた通り、美容皮膚科医になるという目的自体は初期研修を終えていればいつでも達成可能だ。 

一方で、重要なのは、下記のような自分が漠然と抱いている疑問点に対して、不確定な要素を可能な限り排除した状態に持っていくことだろう。 

  • 今の自分の状況から美容皮膚科医になることが最適な選択肢なのか? 
  • なるとしても、どういうプロセスを経るのが中長期的に見て正解なのか? 
  • 自由診療領域で働くにあたり、どんなリスクがあるのか? 

このような疑問が解決するように、以下において美容皮膚科医に関する情報を整理した。

美容皮膚科医とは  

美容皮膚科とは端的に言えば「注入処置・機械施術・投薬などを行うことで、外見(肌感・肌質)をよりよくする診療科」である。以下に各項目別にまとめたので参考にしていただければと思う。

仕事内容  

美容皮膚科医としての仕事内容は主要なものとして大きく4つに分類される 

①カウンセリング(診断) 
②注入系処置|ボトックス・ヒアルロン酸等 
③機械施術|HIFU・ピコレーザー等 
④投薬|医薬品・医薬部外品 
※クリニックによっては糸リフトなども含まれる場合がある 

診療対象(=悩み)

美容皮膚科には下記のようなお悩みをもって来院される方が多い。これらの悩みを施術によって解決するのが仕事となる。 

・シミ  
・シワ、たるみ  
・ニキビ・ニキビ跡  
・痩身 
・タトゥーを除去したい      
・脱毛  
 etc. 

※クリニックによって診療範囲の差異が多少なりともある。 

取得するスキル

どの診療科でも、その科で働くなら必須とされるスキルというものがあるだろう。以下に、診断と治療に分けて主要なものを列挙したので参考にしていただきたい。 

診療スキル

【シミ】

具体的には、日光性色素斑(いわゆるシミ)なのか、肝斑なのか、雀卵斑なのか等。当たり前ではあるが、病態によって治療法が異なるので、正しく診断することが重要となる。具体例を紹介すると、肝斑の診断は難しいのだが、肝斑に誤ってシミ取りレーザー(いわゆるスポット治療)を実施すると、肝斑が増悪し濃くなってしまう。  

【シワ】 

シワと一口にいっても次に示すようにその深さや成因によって治療アプローチが異なるので、正しい診断ができなければ適切な治療ができない。 

シワは基本的に以下の3グループに大別される。 

1.表情ジワ:表情筋収縮による。 

2.小ジワ(ちりめんジワ):長期間の紫外線刺激による。光老化が原因。 
※光老化:加齢性変化(=老化)とは別に、光(特に紫外線)刺激が繰り返し長期間にわたって及ぶことで生じる変化のこと。日焼け止めや日除け対策グッズは、この光老化対策となるので使用を推奨する。 

3. 大ジワ(刻まれジワ):皮下組織の委縮性変化による。表情を作らない(いわゆる真顔)状態でも溝としてはっきり認識されるもの。 

治療スキル

適切な診断がされたら、次はその悩みに最適な治療を提供する必要がある。 

【各種レーザー治療】 

近年、その技術発展が目覚ましい医療レーザーデバイスは、美容皮膚科領域においてなくてはならない治療ツールとしての地位を確立している。 

美容皮膚科医になった場合は、各種レーザー機器を用いて、シミ、シワ・たるみ、ニキビ・ニキビ跡、タトゥー除去等を実施していくことになる。 

よって、各悩み別に適したレーザーを選択し、その使い方に習熟していく必要がある。 

最近のお客様の中には、知識武装をしっかりされている方も多く、機械の種類・メーカーまで調べ上げてご質問される方もいる。そのため、自身の勤務するクリニックが採用しているレーザー機器だけでなく、他のレーザー機器に関する知識も取得していくことが良い姿勢だろう。  

【各種注入治療】

主にはボトックス・ヒアルロン酸といった注入製剤を用いて、患者の悩みを解決していく。 

例えば、シワの治療に関しては、上記の①表情ジワにはボトックス注射であったり、③大ジワ(刻まれジワ)であればヒアルロン酸による充填療法が良い適応となる。 

顔面及びその他施術部位の解剖を理解したり、手技に習熟していくことが必要である。 

最近ではフィラークリニックという名称の注入治療に特化したクリニックもあるくらいで、近年はかなり需要の高い治療と言えるだろう。 

【投薬治療】 

医薬品(トランサミン、トレチノイン、ビタミン系)に限らず、医薬部外品の美白化粧品なども含めて、患者様に最適な選択肢を提示できるようにしたい。経験や知識がものをいう領域であり、常に新しい製剤が出てくるため、常に知識をアップデートしていく姿勢が求められる。 

学会・資格  

まず最初にお伝えすべき点として、美容皮膚科医として勤務するにあたり必須の資格はないということだ。 

美容皮膚科医関連で存在する学会としては、日本美容皮膚科学会のみである。よってこの学会に入会される美容皮膚科医が多い。 

しかし、専門医のプログラムを有していないので、美容皮膚科専門医という資格は取得できない。年に数回の学会と学会誌は発行されている。(この点に関しては、私おさるが直接日本美容皮膚科学会に直接電話をかけて問い合わせたので間違いない) 

またかかる費用についてだが、年間8,000円であり、他学会に比べて低価格帯に設定されている。 

ここからは少し余談にはなるが、皮膚科専門医を取得されてから美容皮膚科に転科される先生もいるが、現時点では少数派だ(明確な数字まではリサーチできていないが、随時補足できればしていきたい)。 

皮膚科専門医取得後のサブスぺとして美容皮膚科・レーザー指導専門医(日本皮膚科学会)という資格があるにはあるが、全国で50名程度とかなり少ない。美容皮膚科グループに勤務している先生の中でその資格を有している例は、少なくとも我々の調査では見当たらなかった。 

勤務形態・ワークライフバランス

こちらは条件によって変わってはくるが、まずはオーソドックスな勤務形態をお伝えする。 

・週5日 

・1日8時間勤務(休憩1時間含めて9時間拘束) 

・土日勤務多め 

・顔出しあり 

上記がオーソドックスな形態となるが、クリニックによっては週4日や1日6時間勤務などを採用しているところもある。 

すでに美容外科や美容皮膚科勤務歴がある場合には、非常勤採用をしているところも多い。 
その場合は、週1日の定期非常勤であったり、スポットで適宜空き枠に応募がかかるなどである。
実際に私の友人に、タイ在住の彼女との時間を確保するため、美容皮膚科の定期非常勤として働いている方がいる。 

ワークライフバランス的な観点で述べてみると、保険診療に比べると、多種多様な勤務形態で人生を謳歌している先生が多い。時間単価がある一定のラインで担保されているため(8000~10000円/h)、常勤でなくともある程度の生活水準を送るに困ることはないというのがその要因の一つだろうと思う。 

私自身の実体験ではあるが、医局に属し大学病院に戻されていた時期に比べると、圧倒的にQOLが高くなった。当時は、忙しいことは仕方のない・・・と理由付けをして、どうにか自分を納得させる日々を過ごしていた。勤務時間が長かったため、起きている娘の顔を見ることがかなり少なかった。平日は寝顔しか見ることはなく、週に1回あるかないかの休みに娘と遊ぶ程度なため、徐々に娘から「久しぶり~」的な発言が見受けられるようになったことは今でも忘れられない。 

QOLだけを求めて自由診療領域に来たわけではないが、QOLが高いことはとても素晴らしいことだと毎日実感している。 

美容皮膚科医の年収  

「お金の話を大っぴらにするなんて、下品だわ!」 

とご指摘をくださるマダムもいるかもしれないが、私共は公正明大に正確な情報を皆さんに伝えていくようにしている。ドンドコ情報を伝えていく。 

設定条件としては、勤務形態・ワークライフバランスの項目で記載したオーソドックスな勤務形態(週5日・1日8時間・土日勤務多め・顔出しある)と仮定させていただく。 

年収に関わる情報を以下に示す。 

・契約時年俸のレンジは、1000-2300万。 

・中央値は1500-1800万。 

・大手美容皮膚科クリニックほど年収は高い傾向。(2000万以上が多い) 

・勤務後の年収が2500-3000万以上のレンジを超えることはかなり少ない。

「ちなみに美容外科医の場合はどんな感じなの?」 

と気になる方も多いと思う。 

端的に言って、契約時年俸は美容皮膚科医の1-2割増しといったところだろう。 

ただ、美容皮膚科医と最も大きく異なる点は、勤務後の年収推移の幅の違いだ。 

美容外科医は雇われであっても、インセンティブ収入が加わり、院長ともなれば億越えプレーヤーがちらほら出てくるのだ。 

ただ、美容皮膚科医も、開業し経営者になったり、メディア出演や執筆活動などの副収入も加われば億越えプレーヤーになれる可能性は十分にある。 

「オイラはいつかぜってー南青山のタワマンの最上階に住んでやるんだ!」 

みたいな野心溢れる先生にとっては、年収の推移も重要な項目であろう。いつでも我々に相談してほしい。知りうる限りの情報を惜しみなく提供させていただく。 

ちなみに私はと言えば、引っ越しが面倒というのもあり、今も家族3人で家賃8万のアパート暮らしをしている。ただ、「夏になるとゴキブリが出てきたりするから早く引っ越したい!」と妻に半ギレで訴えられたため、素直にそろそろ引っ越そうと思っている。オススメの物件情報があれば、ぜひ教えて欲しい。 

美容皮膚科医になる為の全てのパターン 

美容皮膚科医になるキャリアパスとしては、主に以下4つのパターンがある。 

  1. 研修医修了後、すぐに美容皮膚科グループに就職 
  2. 皮膚科以外の専攻医または専門医から転職 
  3. 皮膚科医専門医または美容皮膚科医・レーザー指導専門医取得後に転職 
  4. 美容外科医から転職 

上記のどのステップを経ても問題なく美容皮膚科医としてのキャリアを形成していける。一応、各パターン別に簡潔に補足しておく。 

 1.研修医修了後、すぐに美容皮膚科グループに就職 

最近、増加傾向のパターンである。「美容皮膚科医になるなら美容皮膚科グループでいち早く技術と知識を学ぶのが最適だ」という考えの方が多い。近年は、どの美容皮膚科グループも教育研修システムに注力しており、自分にあった指導環境を選択できれば大方問題ないだろう 。

 2.皮膚科以外の専攻医または専門医から転職 

このパターンは外科系よりも内科・マイナー系からの割合が多い印象である。外科系の先生は美容外科を選択される方が多い。一方、内科系やマイナー科出身の先生で、「手術はちょっと」「外科的なアプローチよりは内科的なアプローチのほうが得意」といったそれぞれの考えをもって転職を決意される方が多い。是非、自分のバックグラウンドも活かしながらご活躍していただきたい。 

3.皮膚科医専門医または美容皮膚科医・レーザー指導専門医取得後に転職 

実は意外と少ない。全数調査をしたわけではないが、全体の1-2割程度だろうと思われる。 

皮膚科専門医取得後のサブスぺとしてある美容皮膚科・レーザー指導専門医に関して言えば、そもそも日本で50名ほどしかいない(ソース:日本皮膚科学会)。大病院の勤務医として勤めているか、個人開業で保険診療をメインに自由診療として美容皮膚科(ボトックス・ヒアルロン酸などはない)を標榜してやっている場合がほとんどで、美容皮膚科グループで美容皮膚科診療をメインでやっている先生は見当たらなかった。 

美容皮膚科医としてのキャリアパスを形成していく上で、皮膚科専門医の資格が優位に働くのは確かだ。皮膚科医としての診断治療の経験が活きる場面も多いにあるだろう。ただ、専門医取得には最低5年間の皮膚科専攻医研修プログラムを修める必要がある。また、皮膚科はシーリングが東京・神奈川・兵庫・京都・福岡の5都府県(2022年度)でかかっており、どの地域でのプログラムを選択するかも重要な判断材料となる。 

シーリング制度とは


新専門医制度導入にあたり2020年度から実施された制度。すでに必要な医師数を確保できている都道府県や診療科で採用数の上限(シーリング)を設けることで、医師偏在の助長を防ぐというものだ。 

若手医師(特に初期研修医や医学生)からは悪法との評判が多い。 

 4.美容外科医から転職 

「美容外科だけでなく美容皮膚科医としての経験も積み、トータルビューティーなアプローチをできる美容医療医になりたい」といったポジティブな動機や「美容外科は訴訟も多かったし、もう少しゆるッとやりたいや」といった様々な動機で転科される。 

美容外科の経験があるため、注入系手技は大方問題なく、仕事に早く慣れる先生が多い。 

そもそも、大手美容クリニックでは、グループ内部で美容外科⇌美容皮膚科と移動できたりもする 

親和性が高いため、転科に伴いそこまで心理的ハードルは高くないプロセスだろう。 

美容皮膚科医への転科、就職をお考えの方へ  

美容皮膚科という仕事そのものに関してや、美容皮膚科への転職について上記してきたが、十分な情報は得られただろうか? 

我々は美容皮膚科への転科・就職をお考えの皆様にとって少しでも有益な情報提供ができていればと切に願っている。 

私自身、保険診療というフィールドから自由診療という全く未知の領域に飛び込む際は色々な迷いが生じてしまい、適切な判断が出来ていたという自信はほとんどない。その原因は、自身の悩みはどのような要素で構成されていて、それらを解決するにはどう情報収集すべきかの計画が一切なかったことにあると考えている。 

転科・就職という大きな判断には悩みは付き物だと思う。その悩みを解決する糸口として、ネット上での情報収集が一つとなる。

私のような同じ悩みを抱えたことがある医師が同じ視点に立って、最適な情報提供を行いたいと考えいている。

まとめ  

美容皮膚科医になるにはとのテーマで長々と多岐に渡り述べてきたが、いかがだっただろうか? 

再度結論をお伝えすると、美容皮膚科医には基本的にどのタイミングからでもなることができる。 

美容皮膚科医という仕事は社会的なニーズも増え続けており、今後はさらなる展望が期待される領域である。参考までに下記データを見てほしい。2019年以前のデータではあるが、非外科手術(主に美容皮膚科施術)セグメントの成長性が著しい。

肌の悩みを持ったことがないという大人はほとんどいないだろう。それらを解決するプロフェッショナルになるべく歩みだした先生がいるならば、我々としてもこの上ない喜びである。 

コメント

タイトルとURLをコピーしました